夜明け前(カイゼン前)の話
実際、「生産管理にとって厳しい状況」であった。顧客ファーストの営業、昔気質の製造、我が道をゆく購買などが、自己都合の要請を発する中、生産の司令塔として全体のバランスを取り、日々決着して、物を生産し納めることが求められた。
デジタル化という点では「決算対応」の旗の下、受注、材料/生産、入出庫/在庫、売上と、お金に関わる定形業務はほとんどシステム化されているが、製造仕様や生産計画など、肝心の生産に関わる情報は、非定形の難しさから取り残され、独自の対応を強いられていた。
一方で、ニーズの多様化とコンビニの台頭で、多品種・小ロット・短納期化が一段と進み、生産管理の事務負荷は増大して管理キャパ超えによる人的ミスが頻発。これに振り回される製造現場は疲弊し、管理崩壊ギリギリのところまで来ていた。

管理限界
この頃、生産管理の予定表は「注番・品名などを手書きした小さなラベル」を磁気シートに貼り、これを鉄製のシートに並べて作成し、2−3日分を生産直前にコピーを取って現場に配布する方式であった。
納期情報が錯綜し、予定の変動が日替わり状態の上、現場は作業性の良い順に入れ替えをするため、予定表自体もあまり信用されておらず、営業の進捗管理は、生産日の翌日、勘定系システムの生産日報の数量をホスト端末で見る方式であった。
このため営業は、自身の担当製品の在庫が少なくなると、生産管理に督促の電話を入れ、それでもダメだとなると工場に来て直接交渉して生産枠をネジ込み、生産が始まるのを監視するという前近代的なやり方であった。
しかし、生産着手後に外出した翌日に、端末で確認したら出来高が少なく、問い質すと「直後に来た特急品対応で中断した」と分かり、血相変えて工場に飛んで行く様な事もあった。
こんな事から、営業は生産管理を信頼出来ず、大きく余裕を見た(サバ読み)納期を発信。生産管理も納期情報を見るのではなく、電話や面前での個別交渉で「本当の納期」を探るという悪循環に陥っていた。
市場からの多品種化の要請は進み、品目数は数千にも及ぶ状況で、熟練者と言えども前記の「生産計画の立て方」としてはムリがあり、客観的に見ても管理限界に近づいていた。
混乱発生時の営業トップからの要請
ある日、某中堅食品メーカーの主力商品「〇〇丼200g入りトレー」の納期遅延をきっかけに、営業の不安心理に火がつき連日、工場に多くの営業が乗り込んで来て、事務所が騒然となった。
「とにかく5000個だけでも明後日に届けないとコンビニの棚からはずされる」と言う切迫した状況が、何品目か重なり、小ロットをさらに細かく分けて生産して対応した結果、積み残しが膨らんで納期遅延が多発する状態となり、熟練者がノイローゼで出社しなくなった。
この混乱に対応するため、営業トップから緊急の支援要請があり
| ① 現在の受注残を未着手と一部進行残に分けて一覧表にしてほしい。 ② さらに主要工程である成形工程の機械別に分けて欲しい。 ③ 出来れば、納期の急ぎの順に並べて欲しい。 |
以上の結果を毎月・水・金曜日に送って欲しい。と言うものであった。
①については、先述のデータベースが使える。②は、勘定系の受注データには無い情報なので、同工程の経験者に聞く。③は、受注データの項目にあるので、そのデータをキーとして並び替える・・方針で臨んだ。
まず、①オーダー数から生産実績を差し引いて「進行残数」を計算して受注残のオーダーを抽出。その後、オーダー数=残数を「未進行」に振り分け。②ほぼ固定という「割り当て機械」は、品目IDをキーにDB(データベース)に項目を追加して、登録する形とした。
信頼をつくる
しかし、①②を終えて、意気揚々③を実施した時に壁に当たった。「納期対応の崩壊」という事態というものの、2-300件の受注残のうち、9割近くの(受注時点の)納期が、すでに過去の日付で、これをキーとして並べても『今、生産すべき優先順位』とは程遠い状況であった。
さらに調べると、元の熟練者は特定の大手顧客分だけ、受注票の納期に合わせて生産するが、それ以外は現場に丸投げし、現場が都合が良いように計画。納期クレームがついた時だけ、営業と個別交渉するやり方で、当該大手の納期情報以外は、あまり意味のない情報であった。
具体的には、月末に生産目標を達成する号令が掛かると、納期は無視して、単価さえ顧みず、在庫など他人事で、とにかく時間当たりの「生産数量」が大きい仕事ばかりをやるのが、真面目な製造課長と言う笑えない実態があった。
営業も対抗上、自身と担当の顧客を守るため、月末に掛からないように早め早めに生産促進し、在庫を抱えておくという根深い悪循環に陥っており、本社管理部が『在庫を減らせ』と言っても「信念を持って在庫を維持する」背景があった。
後日、親しい営業に「正確な納期」を発信して欲しい旨を依頼した際「他の連中が1ヶ月弱の安全を見ている以上、自分だけが本音発信したら顧客に迷惑を掛ける」と言って断わられた。
信頼が損なわれると『取引コスト』は増大する。『信頼を継続的に維持する仕組み』が求められる。『見える化』を支える情報システムも一つの要素であり、これに運用方法やそれに当たる人の人間性なども問われる。


